大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)92号 判決

一 前掲請求の原因のうち、原告が特許権を有する原告主張の特許発明について、発明の要旨並びに被告の特許無効審判の請求から審決の成立にいたる特許庁における手続及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。

1 本件発明と引用電磁石との技術思想の比較

右に確定したところによると、本件発明は、その名称を「磁気選別機」とするとともに、その発明の要旨の名称的事項においても「…………を特徴とする磁気選別機」とされている。そして、成立に争いのない甲第一六号証の三によると、電磁石は、電流の磁気作用を利用して機械力を発生させることを目的とし、単独器具としてのほか、磁気選別機、リフテイング・マグネツト等の機器の一部として使用されるものであることが認められるところ、成立に争いのない甲第二号証によると、本件発明の出願明細書中、特許請求の範囲には、(特許公報)磁気選別機の特徴として「導磁容体に電磁鉄芯を設け、その磁極面に凹陥部を形成したこと」という電磁石の構成を掲げるだけであり、発明の詳細な説明及び添付図面にも、専ら電磁石の構成、作用効果が記載され、磁気選別機のそれ以外の機構については何ら具体的に言及されていないことが認められるから、本件発明の実質的な対象は、その名称にかかわらず、単体としての磁気選別機そのものではなく、その一部を構成する電磁石にあるものと解さざるをえない。したがつて、審決が本件発明の本質を磁気選別機用の電磁石にあるとしたのは正当である。

ところが、他方、成立に争いのない乙第七号証の一(引用電磁石の断面構造図)によると、引用電磁石も実はリフテイング・マグネツトの構成部分たる電磁石であることが明らかである。

そうだとすれば、審決が本件発明と引用電磁石とを電磁石として比較してその異同を判断したのは当然といわなければならない。原告は、本件発明を磁気選別機、引用電磁石をリフテイング・マグネツトとして捉らえて、両者の技術思想に差異があると主張し、審決の右判断を批難するが、本件発明及び引用電磁石の各実体を誤解したものというべきである。

そして、前出甲第一六号証の三及び証人堀木成栄の証言により成立を認めうる乙第一七号証によると、磁気選別機及びリフテイング・マグネツトは、ともに電磁石の吸着力を利用した機器であつて、一般的にいつて、その原理及び基本的構造において差異がなく、特にこれを構成する電磁石が外方周囲に継鉄(導磁容体)、中央部に電磁鉄芯を配置し、その各端面を相対的に位置させて磁極面とする点において同一の構造を有し、同一の作用を生じるものであること、ただ、いずれも用途によつて各種の形状及び特性を与えられるから、その電磁石をそのまま互換しても構造上、同一の条件を得られるものではないが、リフテイング・マグネツト用の電磁石のうちから、磁気選別に適する諸定数のあるものを選択することによつて、効率のよい磁気選別機用の電磁石を見出すことは、可能であつて、実際にもしばしば行なわれているところであり、また、その逆も同様に可能であることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、原告が磁気選別機及びリフテイング・マグネツトについて技術思想の差異として主張するところは、いずれもその用途に応じて適当とされる形状、特性ないし操作上の差異に過ぎず、少くとも両者の電磁石の技術思想如何にかかわる差異ということができない。

そうすると、磁気選別機の電磁石とリフテイング・マグネツトのそれとは、電磁石一般の技術思想において相違するところがなく、いわゆる相互交換性があるものというべきである。したがつて、審決が本件発明の電磁石と引用電磁石とを電磁石たる点において一致するとした認定に両者の技術思想の相違を看過した誤りがあるとされるいわれはない。

2 本件発明と引用電磁石とにおける凹陥部の比較

前出甲第二号証、乙第七号証の一及び第一七号証によると、本件発明の電磁石及び引用電磁石は、ともに外方周囲に円形導磁容体(継鉄)、中央部に電磁鉄芯を配置し、その各端面を相対的に位置させて磁極面とした平板型の電磁石であり、また、電磁鉄芯の下面に凹陥部を形成している点において共通しているが、引用電磁石においてはその中央に通風孔が上下に貫通していることが認められる。

そして、両者の凹陥部の構成、作用効果を比較すると、さきに示した本件発明の要旨には、凹陥部の構成として「導磁容体に電磁鉄芯を設け、その磁極面に凹陥部を形成し………」とされているのみであつて、その形状、大きさ、磁極面における位置等について全く限定がないところ、前出乙第一七号証によると、引用電磁石においては、「継鉄」(本件発明における「導磁容体」に相当する。)及び「電磁鉄芯」(別紙第二図面(〔編註〕省略)参照)の各端面により磁極面が形成され、そのうち電磁鉄芯の端面たる磁極面に凹陥部(同図のC)が設けられていることが認められるから、結局、引用電磁石における磁極面の凹陥部は本件発明の構成をすべて充足しているものといつて妨げがない。

次に、その作用効果をみると、前出甲第二号証によると、本件発明の出願明細書には、凹陥部による作用として「電磁鉄芯2から放出される磁力線は、磁極が平面の場合は全面にわたつて平等に放出されるけれども、本発明においては、電磁鉄芯2に定着したポールピース3に凹陥部4が存するため、実験上不均等な、もしくは乱れた、換言すれば不規則な磁力線が放出され、通常の磁力線方向を辿らず、かつ、磁極端部において磁束密度が大となり、被吸引物はことごとく横の状態で吸着される。」と記載されていることが認められるが、前出乙第一七号証の指摘するように、凹陥部の底及び壁からそれぞれ放出される磁力線が相互作用によつて多少方向を変えることはありうるとしても、凹陥部の存在によつて被吸引物がことごとく横の状態で吸着されるという右明細書記載のような作用が生じるものとは容易に考えられないのは勿論、証拠上これを裏付ける実験結果が存する等の事実も認めるに足りず、僅かに証人山崎政夫の証言中、本件発明においては、凹陥部があるため、被吸引物が横の状態で吸着されることもあり得る旨の供述部分があるにすぎないのみならず、右証言中にはその発明者たる同証人自身がさような現象は被吸引物の「ことごとく」に生じるものではないことを認める供述部分もあるから、右乙号証の記載をさらに斟酌すると、結局、本件発明において磁極面に凹陥部を形成したことによる作用効果としては、電磁鉄芯の磁極面に残された突出部(別紙第一図面の3、〔編註〕省略)に磁力線が集中するため、その部分の吸着能力が向上するにすぎないものと解するのが相当である。

そうだとすれば、引用電磁石の凹陥部も、本件発明と同一の構成である以上、当然右程度の作用効果を生じるものと推認され、したがつて、両者の凹陥部の構成及び作用効果を全く異なるとする原告の主張は採用することができない。

なお、原告は、本件発明において磁極面に形成した凹陥部は被吸引物を横の状態で吸着する目的を達成するものに限局される旨を主張するけれども、右主張は、本件発明の出願明細書に磁極面の構成としてその主張のような目的を達成するだけのものに限定する旨の具体的記載がない以上、取り合うに足りない。

3 以上の次第で審決が、本件発明と引用電磁石とを構成及び作用効果において同等のものであるとした判断は正当というべきであつて、結局、審決には原告主張の違法がないことに帰着する。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!